さて、おそらく伊勢か奈良あたりと思われるこの地で一泊するはずでしたが、なにやらこの地方は通貨さえも違うようで宿泊が出来ませんでした。念のため、ここは北京です。コイツは京都の南の方と思ってるらしいですが。
やむなくこの日は野宿しましたが、食料も尽きてきましたのでここで何としても食糧補給もしておかねばなりませぬ。
この街には大きな赤い建物がありました。(多分、明の政庁)かなり風変わりな造りですがこれほどの建物に住んでいるとあらば、おそらく名のある武将の家に違いないと思い、護衛の給仕をする事で路銀を稼ぐことにしました。
私は夜の部の城の門の警備に回されました。
二人一組で警備にあたり、私の相棒はおそらく二十歳なるかならぬかの若い純情そうな青年の方でした。
その方の名は「楊」と書いてヤンと読むそうです。変わった名前ですね。←お前がな。
さて、この給仕を務めて約十日。そろそろ路銀も手に入ったことですし旅立つ事にしました。
その最後の務めの日、私はこの地方の方言をひとつ学びました。
楊殿が私に「うをあいにぃ」と言ってきたのです。←「ウォーアイニー」。中国語で「愛してる」ですな。
おそらくこれはこの地方の「こんばんは」に違いありませぬ。
私も「うをあいにぃ」で返したら楊殿は飛び跳ねて喜んでおられましたので間違いないと思われます。そら喜ぶわな。
しかし私のお勤めも今日で最後。明日には小田原に向けて発たねばなりませぬ。
おそらく楊殿と二度と会う機会はありますまい。
ただ、今後は楊殿から教えていただいた言葉のおかげで多少苦労しなくても済みそうです。
ところで美咲殿、今回の挿絵がどうしても気になるのですが、なぜ私が悪魔なのでございますか?